2025年01月11日
「アセットライト」は業界の特性ではなくサイクルの一部である:SaaSが儲からない理由
ソン・リュンス
アセットライトとは何か、なぜ重要なのか?
ロッテケミカルが化学業界の長期低迷に直面し、資産の軽量化(キャピタルライト/アセットライト)を加速させているという。会計上、会社の資産は有形資産(工場、生産設備など)のような実体のある資産と、そうではない無形資産(のれん、著作権、ソフトウェアなど)で構成されているが、最近ニュースで話題になる資産の軽量化とは、不動産や工場のように帳簿上の価値はあるものの現金を縛り付けてしまう有形資産を減らすことを意味する。
多くの投資家が上場株式や未公開株への投資でチェックボックス式のアプローチをとる際、資本効率性(capital efficiency)を真っ先に見る[1]。すべての条件が同じなら、現金を創出し続ける(フリーキャッシュフロー)会社の方が消費するだけの会社より良く、時間が経つにつれて大きな支出なしにより多くの現金を創出できる会社の方がより魅力的だ。これは投資家にとっても良く、創業者にとっても良い。現金を創出できない会社は、追加の株式発行(創業者の持分希薄化)や負債(リスク発生時の支配権希薄化)を通じて資金を調達しなければならないからだ。
例えば、サムスン電子は半導体製造施設(ファブ)や生産設備といった有形資産に巨額の投資を続けている。工場を建設した後も、技術が急速に変化する半導体市場において定期的に設備をアップグレードしなければならないためだ。一方、マイクロソフトはソフトウェアの開発・保守を中心に回っているため、工場やハードウェア生産設備に大規模な支出をする必要がない。したがって、同じ水準の利益を出しても、サムスン電子はその利益を維持するために現金の支出を続けなければならず(capital-intense)、マイクロソフトはその必要がない(capital-light)。
資本集約度が低い(capital-light)ビジネスが好まれる理由の一つが、2000年代初頭にソフトウェア企業が投資家の注目を一身に集めた背景にある。ハードウェアのコストが急激に下がり、オープンソースソリューションが増えるにつれて、創業に必要な初期資金が減り続けた。そしてこの傾向は理論的に今まで続いてきた。AWSと主要なソフトウェアスタック一つを習得し、ChatGPTやコード自動補完ツールを使えるなら、特定のニッチ市場を狙ったソフトウェアを作るのにかかる時間は数日、費用は数十万ウォン(数万円)あれば十分だ。
問題は、誰もが新しい製品を作れるようになると、「製品を作ること」自体が急速にコモディティ化(上方平準化)するという点だ。「宗教団体のためのCRM」とGoogleで検索すれば、すでに似たような市場を狙って広告を出している業者が山ほど出てくる。さらに広告がついているということ自体が意味深長だ。極めて狭いニッチ市場だとしても、潜在顧客を無料体験や決済に引き込むには広告費のような先行投資が必要だという事実は変わらない。
つまり、製品自体を作るのにかかる費用は大きくなくても、「ユーザーを連れてくる費用」が大きくなれば、それが結局は資本投資を要求するポイントになる。実際に、核心となる製品開発の難易度は高くないにもかかわらず、営業・マーケティング費用が主な支出となっているソフトウェア企業が数多く存在する。
ところが、予想以上に多くのソフトウェア企業の売上対R&D(研究開発)支出比率が、長期間大幅に減ることなく維持されている。なぜだろうか?企業向け(エンタープライズ)市場を例に挙げよう。DocuSignのような電子署名サービスを複製するのはそれほど難しくない。PDFにデジタル署名を入れ、すべての署名者にメールで成果物を送る程度で済む。これは実際には顧客が望む機能のごく一部に過ぎない。署名された文書を自動的に保存するストレージ、契約書を作成する経路、誰が通知を受け取りどう追跡するかなど、連携(Integration)を続けなければならない。最初は「Slack連携で営業チームへの通知+契約追跡、Dropbox連携で自動バックアップ保存、Salesforce連携でインライン契約書作成後に適切な担当者と共有」程度でも十分に見えるかもしれない。
しかし、Slackが市場シェア100%を占めるツールではないという点で問題が生じる。Teamsを使う会社にはどう対応するか、チャットアプリを使わないメールベースの企業はどうサポートするのか。CRMもSalesforce以外に他の製品が無数にあるため、時間が経てば「宣教師専用CRM」でさえあらゆるソリューションと連携しなければならない状況に置かれる。
結局、こうした統合機能を増やし続ける過程で――たとえソフトウェアが資本集約的ではなく利益率が高いとしても――新たなコストが絶えず発生する:
- ドキュメント化のコスト
機能が増え、相互に絡み合う関係が複雑になるにつれ、マニュアルや資料が幾何級数的に増える。マーケティングも頭を悩ませることになる。できたばかりの核心機能を探している人だけを狙う方式ではなく、特定のワークフローとの統合まで望むユーザーを選び出さなければならないため、以前のように広範囲な広告では通用しにくい。代わりに「今すぐ財布を開きそうな」キーワードを狙った超精密な検索広告を打たなければならないが、その費用はますます上がっている。 - ユーザーサポートのコスト
カスタマーサポート(ユーザーサポート)がカバーすべき情報量も多くなる。もはや「単一製品」をサポートするのではなく、「異なる製品同士の予期せぬ組み合わせ」から発生する問題を解決しなければならない。 - 連携維持のコスト
連携しようとする他の製品もアップグレードされ続ける。単一製品だけ作って放置すれば維持コストは低く済むかもしれないが、あらゆるソフトウェアと絡み合っていなければならないなら事情は異なる。
会計的に見れば大部分は営業費用(operating expenses)に計上され、一部は売上原価(COGS)に含まれる。しかし経済的観点から見れば、「複雑な製品を作り、売り、顧客を繋ぎ止める」行為が一つの無形資産(intangible asset)を形成する過程である。この資産は物的設備や飛行機のように有限な寿命を持つ。維持・保守費用(現金支出)と減価償却(非現金費用)が必要なのだ。そしてその減価償却分に相当するレベルだけは現金支出が行われてこそ、この資産が(そしてその資産の上に築かれた事業が)完全にゼロになるのを防ぐことができる。
もちろん、ソフトウェア業界は依然として魅力的であり得る。利益率が高く、ピボット(方向転換)も速く、ネットワーク効果やロックイン(lock-in)といった規模の経済を享受する機会がある。しかし、こうした長所は時間が経つにつれて「似たような会社が新しく登場したり、それらの会社が顧客を集めようとする競争」によって相殺される。卓越した経営陣や政府の保護、とてつもない運がなければ、ソフトウェア業界の「経済的財務諸表(収益構造)」は、結局のところ航空会社のように資本集約的な産業と似た形に収束することになる[2]。実際には航空会社の中にも、優れた経営、政府の強力な保護、運、あるいはそれらの組み合わせのおかげで、長期間高い収益を上げてきた事例もある。
ある産業の草創期を理解するには、「どれだけ成長するか、どんな影響を及ぼすか、その産業特有の資本サイクルがどのようなものか」を観察しなければならない。しかし長期的に見れば、結局「なぜ今この産業が違って見えるのか」を知ってこそ、「十分な時間が流れた後に他の業界と似てくる」未来を読み解くことができるようになる。
[1] 資本効率性は、ROI(投資収益率)を高く維持できるかを評価する際の主要指標として活用されることが多い。
[2] 会計帳簿上は異なって見えるかもしれないが、競争が激化し市場が成熟するにつれて、「継続的な投資とメンテナンス」を必要とする無形資産が実質的なコストの中心となり、航空機や工場のような物的資産を保有する業種と類似した構造に収斂していく可能性がある。
SaaSスタートアップがもはや儲からない理由
上記の内容を理解するだけでも、サブスクリプション型ソフトウェア(SaaS)企業への投資が以前ほど利益を生まない理由はわかるはずだ。しかし、韓国のVC(ベンチャーキャピタル)は投資が下手なことで有名であり、時代遅れであるため、より具体的な説明が必要だと思われる。ここで整理しておこう。
第一に、作るのは簡単になったが、売るのは難しくなった。
かつてはAWSやオープンソースソリューションのおかげで、シンプルなMVPを迅速にリリースでき、SaaSはすぐに収益化できた。しかし現在は、市場に類似製品が溢れ、顧客が求める機能も複雑化している。したがって、「Move fast and break things(素早く行動し破壊せよ)」という戦略はもはや通用しない。初期製品の開発は安価にできても、機能拡張や統合(インテグレーション)、マーケティングに継続的な資金が必要となるのだ。
第二に、サブスクリプション売上があっても手元に現金が残らない。
「ソフトウェアは資本集約的ではない」という偏見があったが、実際には無形資産の維持・保守にかかるコストは増大する一方だ。あらゆるサードパーティとのAPI連携が必要であり、カスタマーサポートチームは予期せぬバグやエッジケースに対応しなければならない。これらすべてが運営費(OpEx)として計上されるため、毎月購読料が入ってきても赤字である可能性が高い。
第三に、広告費と顧客獲得コスト(CAC)の無限増大。
最近はサブスクリプション型製品を求める人も多いが、競合があまりにも多い。結局、「検索広告やソーシャルメディア広告にもっと資金を投じなければユーザーが増えない」という状況に陥る。クーポン、プロモーション、紹介報酬などで新規加入者を引きつけても、そのコストを回収する前に別の競合が現れ、顧客の離脱を招く。サブスクリプション売上が伸び続けているように見えても、CAC(顧客獲得コスト)のせいで実際の利益は低迷しているのだ。
米国のVCたちは冗談半分で「スタートアップに投資した金の75%はGoogleやMetaの広告費に消える」と言っていたが、それがもはや冗談ではなくなっているのが悲しい現実である。
第四に、市場の飽和。
SaaSが初めて登場した時は、「エンタープライズ・ソフトウェアの革新」という印象が強かった。しかし今では「誰でも作れる形態」として定着し、製品自体が上方平準化された。さらに、類似のSaaS間で機能の差が大きくないため、価格競争に突入すればマージンが一気に削られてしまう。
こうした理由から、SaaSスタートアップへの投資は以前ほど収益を生まないという結論に至る。製品自体は資本集約的ではないように見えるが、長期的に見れば「維持・保守・マーケティング」に資本が投下される「属性」が露呈するからだ。結局のところ、もはや単に「ソフトウェアだから大丈夫だろう」と安易に投資してはならず、差別化された技術力や市場支配力を持つSaaSだけが生き残るということになる。
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