2025年02月28日
巨大なAIバブル:本格的な下落相場の始まりか?
ソン・リュンス
以下は、米国ボストンを拠点とするブティック型ヘッジファンド、Acadian Asset Managementのシニア・バイス・プレジデント兼ポートフォリオ・マネージャーであるOwen Lamont氏による、AIバブルに関する主張を翻訳したものである。
米国のビッグテック企業各社が、2025年に「大規模なAI投資(massive AI spending)」を敢行すると発表した。株主たちは、このニュースを喜ぶべきか、それとも懸念を持って見守るべきか、頭を悩ませざるを得ないだろう。果たして、将来の莫大な利益創出と共に株価が高騰するのか、それとも底なしの浪費となってしまうのか、誰にも分からないからだ。
過去のデータを検証すると、大幅な投資計画が発表された直後には、むしろ低い株式リターンが続くケースが多かった。これは市場全体であれ、個別企業であれ同様である。現在のように、米国のメガキャップ・グロース株の投資計画とバリュエーションが共に高い時期において、保守的にアプローチすべきだという意見が出るのはそのためだ。
期待リターンは時間とともに変動する
学界では、企業の高水準な設備投資(CAPEX)は、すなわち低い期待リターンを意味するという解釈がある。
- 行動ファイナンスの観点では、「株式市場が過大評価されており、今後の実質リターンは2%程度にとどまるだろう」と見ている。
- 合理的観点では、「割引率が2%と低いため、現在のバリュエーションは適正である」と判断する。
どちらの解釈も、「現在の資本調達コスト(割引率)が低いため、企業は積極的に投資を行う」という結果に帰結する(Cochrane 1991)。結局のところ、割引率が低い時に投資が拡大し、その翌年の株式リターンが低下するというパターンが繰り返されるということだ(Lamont 2000)。
特に、「今後の設備投資計画」の方が、「すでに支出された設備投資費」よりも将来の株価を予測する上で有用であるという研究もある。2025年2月現在、次々と発表されている大規模な投資計画は、今後12ヶ月間の市場リターンの低迷を示唆していると見ることができる。
株式の発行
行動ファイナンス学では、高水準の設備投資は「過大評価のシグナル」である可能性があると見ている。株価が割高であれば、企業は新たに株式を発行し、その資金を投資に回す公算が大きいためだ(Baker & Wurgler 2013)。実際、過去のデータも「今日、株式を大量に発行している企業や市場は、将来のリターンが低かった」と示している(Daniel·Hirshleifer·Sun 2020, Baker & Wurgler 2000)。
ところが現在は、特段のIPOブームもなく、既存の上場企業は自社株買いに集中している。「本当に市場が過大評価されているなら、なぜ株式発行ラッシュが起きないのか」という反論が可能な局面だということだ。
それにもかかわらず、株式の発行がなくとも、高いCAPEXが市場の過大評価を示唆し得る理由がある。
投資家の歓心を買うための投資
投資家が特定のトレンドを好む場合、企業は株価上昇を狙ってそのトレンドに積極的に従う傾向がある(Stein 1996)。現在のようにAI投資が市場で称賛されている場合、企業は実際に株式を発行しなくても投資を大幅に増やす可能性がある。ポルク・サピエンツァ(2009)は、「企業が株式発行なしに資金を使っても、高いCAPEX(設備投資)はその後低い収益率につながる」という事実を発見した。
つまり、「投資家がAI投資に熱狂する→企業がこれに応えてAI CAPEXを増やす→当該企業の株価が過度に膨れ上がる」という論理が、2025年の状況にも適用され得るということだ。
誰もが同時に楽観的
もう一つのシナリオは、企業と投資家が同時にAIの未来に対して過度に楽観的であり、あえて株式を発行せずとも投資が活発になる状況だ。最近ビッグテックの利益が急増したため、「この成長の勢いが永続するだろう」という根拠のない信念が生まれる可能性がある(Gennaioli・Ma・Shleifer 2016)。
この場合、CAPEXが効率的に使われているかどうかは二の次だ。重要なのは、「誤った楽観」が現在の高い株価と多くの設備投資を同時に作り出しているという点である(Arif & Lee 2014)。
結局は資金を浪費することになる
ドットコムバブル時代、通信サービス業界が爆発的に設備投資を行ったものの、倒産する事例が続出した前例を想起させる(Doms 2004)。企業はフリーキャッシュフローが多いと過剰投資を行いやすいが(Richardson 2006)、この時、投資家は「帝国建設(empire building)」による問題を過小評価し、株価を過大評価することもある(Titman・Wei・Xie 2004)。
また、好況期に競争を無視することは「過剰建設」を助長する(Greenwood & Hanson 2015)。各社が「我々が先に投資すれば先取できる」と考えるため、いざ業界全体で見ると過度な重複投資が起こり得るという話だ。
このように高いCAPEXは将来の株価収益率にとってネガティブなシグナルであるという多くの証拠がある。しかし、現在の状況を「市場が危険水位を超えた完全な赤信号」だと断言するには、少し無理があるように思える。
- 確かに、今日の高い投資計画は、市場の過大評価を示唆するいくつかの指標の一つだ。
- だからといって、1999〜2000年のように大規模な株式発行の波が現れているわけでもない。
筆者はそのため、今回の「大規模AI投資」を市場に対する「黄色信号」程度と見ている。深刻な崩壊シグナルとまで断定するのは早計だが、ある程度の調整が必要な区間であることを示唆し得るという意味だ。
重要なのは、実際にこの投資が企業の利益とファンダメンタルズの強化につながるかどうかだ。不確実性そのものよりも、その不確実性をどのように認識し備えるかが、今後の市場の方向性を決定するだろう。
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