2025年05月22日
急騰する量子コンピュータ株と高まる懐疑論
ソン・リュンス
4月29日、量子コンピューティング業界のリーダーとされるD-Wave Quantum Inc. (QBTS)に対し、米国のリサーチ系投資会社Kerrisdale Capitalは詐欺の疑いを提起し、同社の株価が過大評価されているとするレポートを公開した。同社は売上を生み出せておらず、顧客獲得も遅れており、商業的な成功の可能性はほぼないというのがその骨子だ。
レポートの要約
D-Waveの核心技術として宣伝されている量子アニーリング(Quantum Annealing)は、従来のコンピュータに比べて最適化問題の計算において特に優れた点はないと言い切っている。レポートによれば、当該技術はすでに数十年前に開発されたものの、業界ではすでに廃れているという。
学界の複数の研究結果において、当該計算方式のスケーリングの利点は少ないか、ほぼないことが確認されており、Kerrisdaleが物流、製造、製薬など主要産業の顧客とインタビューした内容でも、D-Waveの技術がもたらす利点は全くなかったことが確認できた。
詐欺疑惑の本質には、D-Waveが量子と非量子計算方式を混ぜ合わせた、いわゆる「正体不明(murky)」な「ハイブリッド計算方式」がある。元エンジニアはKerrisdaleとのインタビューで「最適化問題の計算において、D-Waveの技術の方が速いという証拠はない」とし、「会社の主要なマーケティングの口実に過ぎない」と発言するほどだった。インタビューに応じた同社の元研究者や従業員によれば、このようなハイブリッド計算方式は「事実上、大部分の計算が古典コンピュータで実行される構造」だったという。
D-Waveが磁性物質シミュレーション関連の問題で量子超越性(Quantum Supremacy)を達成したという主張も攻撃を受けている。同様の問題はすでに古典的なコンピュータでも十分に解くことができ、その問題自体が現実に応用できる場面もあまりないという反論だ。
決算発表
レポートが公開された後、5月8日の決算発表でD-Waveは前年同期比500%以上増加した2025年第1四半期の売上を報告し、株価が急騰した。
同社は売上が増加した主な要因について、同社の量子コンピューティングシステムの販売増加によるものだと明らかにしたが、これは量子コンピュータへの関心が高まる中、研究開発用としてD-Waveのシステムを購入した団体や企業が増加したためと分析される。同社は決算発表資料で、複数の事例を挙げて量子コンピューティングが古典計算方式に比べて優れている(Quantum Supremacy)という主張を繰り返したが、企業の、実質的な問題解決を支援したおかげで売上につながったのかは不明である。
もちろん、レポートを公開したKerrisdaleが、D-Waveの株価が下落してこそ利益を得るという点は念頭に置く必要がある。しかし、一企業の問題としてのみ見ることができないのは、IonQ、Quantum Computing Inc.、Rigetti Computingといった他の量子コンピューティング企業も、投資家を欺いた、あるいは事業方式が怪しいという同様の疑惑に包まれたことがあるためだ。
D-Wave ショートレポート
D-Wave Short Report.pdf • 661 KB
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