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2025年06月03日

「バッファー型ETF」に投資すべきでない理由とデルタヘッジ

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ソン・リュンス

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「米下落相場の損失緩衝」…サムスン資産運用、アジア初のバッファー型ETF発売
「初の商品であるだけに金融監督院・取引所と数多くの協議」「下落相場で約10%水準の緩衝を追求」サムスン資産運用が下落相場で一定部分の損失を減らし、上昇相場で一定水準まで収益を上げる「バッファー型上場投資信託(ETF)」をアジアで初めて発売する。サムスン資産運用は…
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ニュース1 - ムン・ヘウォン記者

去る3月、サムスン資産運用からアジア初となる「バッファー型ETF」が発売されたという。S&P 500指数に連動するが、下落相場で10%程度の緩衝効果を追求するという。S&P 500指数が高値から20%ほど下落した際、当該ETFは10%程度のみ下落することを目標とするものである。

「バッファー型ETF」はオプション戦略の構造化

当該ETFは一見すると新しい金融商品のように見えるが、事実上オプションの組み合わせをパッケージ化した商品である。戦略の核心は以下の通りだ。

  1. プットオプションの買い(ロング・プット) – 下落防御用
  2. コールオプションの売り(ショート・コール) – 上昇制限用

そして通常、プットオプションの売り(ショート・プット)まで共に組み込まれる。これが下落幅を制限しつつ上値も制限する「カラー・オプション(Collar Options)」構造である。例として、大まかな構成は以下のように設計できる。

  • バッファー:-10%まで下落保護、それ以下からは損失発生
  • キャップ:+15%以上の収益制限
  • 満期:大部分が1年固定
  1. ATM(アット・ザ・マネー)とは、市場価格と権利行使価格が同一の状態を意味する。ATMプットオプションを買う場合、市場価格が今より下がれば現在の価格で売ることができる権利を獲得することを意味する。つまり、ATMプット買いのみを行う場合、市場下落時に損失が無制限に補填される。
  2. OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)とは、権利行使価格と市場価格が異なることを意味する。上記の構成のようにOTMプットオプション売りを行う場合、オプションの買い手に対し、市場価格が90あるいはそれ以下に下がった際、その価格で買い戻してあげることを意味する。
  3. OTMコールオプション(115)売りは、市場価格が115あるいはそれ以上になった際、買い手に対しその価格で売らなければならないことを意味する。

1番と2番を組み合わせれば、10%の下落まで防御できるオプション戦略を作ることができる。ところで、1番だけ実行すれば損失が無制限に補填されるのに、なぜあえて2番を行うのだろうか?それは1番に対するオプション・プレミアムを支払わなければならないからだ。

市場状況と満期によって異なるが、ATMプットオプションのプレミアムは概して非常に高い。当該オプションを売る人の立場では、現在の価格から少しでも下がれば買い手に損失を補填してあげなければならない義務が生じるためだ。

OTMプットオプション(90)を売っても、買い手が支払うオプション・プレミアムでATMプットオプションのプレミアムを支払うには十分ではないだろう。単純に算術的に考えた時、現在の価格での下方に対する保険と、(現在の価格×0.90)での下落を保護してくれる保険の保険料は同じにはなり得ない。当然、前者のオプション・プレミアム(保険料)の方が高いはずだ。

ここで残りのオプション・プレミアムの差額を埋めるために3番が登場する。OTMコールオプション(90)の買い手に、市場が現在時点から15%以上上昇した時の収益を渡すものである。買い手の立場では、ATMコールオプションを買うよりもはるかに安い費用(オプション・プレミアム)で市場暴騰に対するエクスポージャーを持つことができる。

設計通りに動かない理由

例示のように「バッファー型ETF」が1、2、3番を統合したオプション買い/売り戦略を通じて下方に対する10%の緩衝効果を実際に提供するならば、投資家の目標によっては一部の人にとって明らかに魅力的な金融商品となり得る。これは当然、理想的な状況での仮定であり、もし世の中が本当に自分の設計と計画通りに動くなら、韓国に占い師が未だにこれほど多くはいないだろうと思う。

6月1日付のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「市場の変動を回避できるというファンド、本当に約束を守っているのか?(Funds Promising Shelter From Wild Swings Are Booming—but Do They Deliver?)」によると、米国では前述したサムスン資産運用の「バッファー型ETF」と同様の戦略を用いたファンド(ETFを含む)が2024年から人気を集め、総額560億ドルの資金を集めることに成功したという。サムスン資産運用もこうしたデータを見て、韓国でも投資家の需要があると判断し、商品を開発したのだろう。これらのファンドは:

「AQRキャピタル・マネジメントは、少なくとも5年以上の実績がある一部の株式ヘッジファンドを分析したが、その結果、大半のファンドが株式と現金で構成された単純なポートフォリオよりも高いリターンを上げたわけでも、損失幅が小さかったわけでもないという事実が明らかになった。」

ほとんどが微々たる成果しか上げられなかったというのが記事の結論だ。主な原因として「オプション・プレミアムに費やされる過度なコストと、それに見合わない程度の保護力」が挙げられている。筆者が考えるに、これはオプション戦略を利用する上で必然的に伴う弱点である。

デルタヘッジ

CMEグループの定義を借りれば、オプションにおけるデルタ(Delta)とは、原資産となる先物価格の変動によってオプション価格またはプレミアムに生じる変化量を指す。つまり、デルタは原資産の動きをある程度反映し、パーセンテージで測定する概念である。

オプション・デルタ | Option Alpha
オプション・デルタ | Option Alpha

上の画像は「オプション・デルタ」を説明するグラフだ。緑色の線(コールオプションのデルタ)と水色の線(プットオプションのデルタ)は、原資産の価格とオプションの状態(OTM、ATM、ITM)によって変化するデルタ値を可視化している。コールオプションは0~1、プットオプションは-1~0の間のデルタを持つ。

オプションを売る主体の大部分(主に機関投資家)は、「デルタヘッジ」(Delta Hedge)あるいは「デルタ・ニュートラル」(Delta Neutral)戦略を目標としている。方向性に関係なくポートフォリオのデルタを0にする動的(アクティブ/ダイナミック)な投資戦略である。

例えば、デルタが-0.5のプットオプション(ATM)を4枚売った場合、ポートフォリオ全体のデルタ・ポジションは+2(-0.5 × -4)となる。デルタ・ニュートラル(0)のポジションを構築するには、原資産となる株式を2株空売り(-2デルタ)しなければならない。

「バッファー型ETF」への影響

理論的には「バッファー型ETF」が構造化したオプション戦略は設計通りに機能するはずだが、現実の市場では予期せぬ変数が作用する。特にマーケットメーカーのデルタヘッジ戦略は、こうした理想的な構造を歪めかねない重要な要因である。

例えば、市場が-8%まで下落した後、瞬く間に+5%反発した状況を想定してみよう。バッファー型ETFはオプション・ポジション上、-10%までは損失が限定されるはずだが、実際には売却したプットオプション(2番)のプレミアムが過度に膨らんでおり、その保護効果が期待通りに機能しない。反発局面でも同様だ。コールオプションの売りポジション(3番)にショートカバーのための買いが入ると、コール・プレミアムが予想以上に急騰し、利益上限に早期到達したり、意図せずETFのパフォーマンスを設計値より低く制限してしまう可能性がある。

つまり、理論上の-10%下落防御と+15%利益制限という静的な構造は、実際の市場においてマーケットメーカーの動的なデルタヘッジとオプション・プレミアムの歪みによって、予想より早く崩れる可能性がある。そしてこの歪みは、単に運が悪かったとかタイミングがずれたという問題ではなく、この戦略が持つ構造的な限界に近い。

こうした理由から、投資家は「バッファー型ETF」という商品名に安心するのではなく、この商品が機能する構造と、その構造が市場の現実においてどのように食い違う可能性があるのかを予め理解しておく必要がある。ETFがオプションを保有しているからといって、必ずしもオプションが意図通りに機能するわけではない。市場は静的ではないからだ。むしろ、それらのオプションが持つ不確実性は、「下方防御」というマーケティング文句よりもはるかに複雑かつ敏感に作用する可能性がある。「保険」を買ったからといって無条件に安心できない理由だ。

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