2025年05月13日
メダリオン・ファンド、効率的市場仮説に対する絶対的な反証
ソン・リュンス
ニューヨークを拠点とするクオンツ・ヘッジファンド、ルネサンス・テクノロジーズのメダリオン・ファンドの収益率は、ユージン・ファーマの「効率的市場仮説」という巨大な前提に真っ向から反論する、究極の反証だ。1988年にメダリオン・ファンドへ100ドル投資していたら、2018年時点で3億9,872万ドルになっていた計算になる。年平均複利利回りに換算すると、なんと63.3%。いかなる論文にも、これほどの数字が記録されたことはない。驚くべきは数字だけではない。ドットコム・バブルと世界金融危機という二度の巨大な市場崩壊を経てもなお、メダリオン・ファンドはただの一度もマイナスを記録しなかった。そしてその収益率は、リスクプレミアムとも無関係だ。ベータ(市場の方向性との連動性)はマイナスであり、ファクター・ローディングもすべて負(-)の値であった。つまり、リスクを負った対価として得た収益ではないということだ。今なお、この成果を合理的に説明できる市場理論は存在しない。
『The Man Who Solved the Market』の中で、著者のザッカーマン(Zuckerman)は、ルネサンス・テクノロジーズを設立した数学者ジェームズ・シモンズの物語、そしてメダリオン・ファンドの設計原理を追跡している。特に付録1にはメダリオンの年度別実績が掲載されており、投資家なら必ず目を通すべき数字だ。「圧倒的」という表現ですら物足りない。
本稿では、メダリオン・ファンドの総収益率(グロス・リターン)を基準に分析を行った。純収益率(ネット・リターン)は、メダリオンが課す業界最高水準の手数料を反映した結果であり、手数料控除後も圧倒的な成果ではあるものの、実際の投資運用能力そのものは総収益率の方がより明確に示している。皮肉なことに、メダリオン・ファンドに外部投資家は投資できない。初期の外部投資家口座はすべて償還され、ルネサンス・テクノロジーズは別途、機関投資家専用ファンド(例:RIEF、RIDGE)を新たに組成した。メダリオンはシモンズと従業員専用のファンドとして残されたのである。
収益率の記録を見れば、まさに前例がないことがわかる。数多くの投資理論や論文を読んできたが、メダリオン・ファンドの成果に比肩する事例は見当たらない。1988年から2018年までの31年間、年間収益がマイナスになったことは一度もない。ドットコム・バブル当時の収益率は56.6%、2008年の金融危機でも74.6%であった。運用2年目以降の最低年次収益率ですら31.5%だったのだ。
このパフォーマンスを最も直感的に理解する方法は、複利効果を見ることだ。1988年初頭にCRSP(市場時価総額加重平均)指数へ100ドル投資していたら、2018年末には1,910ドルになる。年平均複利利回りは9.98%。市場全体で見れば悪くない数字だ。しかし、同じ100ドルをメダリオンに入れていたらどうなるか? 3億9,872万ドルだ。400万ドルでも、4,000万ドルでもない。31年で100ドルが4億ドルになる魔法が、現実世界で起きたのである。
もちろん、この数字には誇張が含まれている。ある時点から外部投資家の資金を受け入れなくなり、従業員でさえ途中で出金を余儀なくされたため、実際には複利効果を完全に享受できたとは言えない。その間、運用規模は2,000万ドルから100億ドルまで拡大したが、収益率はほとんど低下しなかった。それほどまでにメダリオン・ファンドの戦略が堅固であったという証拠だ。
著者によれば、メダリオンの戦略は数千もの超短期ポジションを同時に開閉する方式だという。全取引のうち50.75%だけが成功したとしても、それが数百万回繰り返されれば天文学的な収益となる。こうした戦略の核心的な問題は取引コストだが、メダリオンはこれさえも最小化することに成功した。報告されている総収益率は、取引コストを差し引いた後の基準だということだ。
メダリオン・ファンドの収益率は「リスクプレミアム」に起因するものと言えるだろうか? 答えはノーだ。年間ベースでマイナス収益率を記録したことは一度もない。年間標準偏差は31.7%とかなり大きいが、平均収益率は66.1%だ。シャープレシオは2.0を優に超える。ベータは-1.0。つまり、メダリオンは市場リスクに対するヘッジ手段でもあったのだ。ファーマ-フレンチ(Fama-French)のファクターで分析しても、SMBとHML係数はどちらも負(-)の値であった。メダリオン・ファンドは、「より多くのリスク=より高い収益率」という金融の公式を打ち破ってしまった。
現在、メダリオンは外部に対して閉ざされているが、ルネサンス・テクノロジーズはRIEF、RIDGEといった外部投資家向けのファンドを運用している。しかし、ザッカーマンが言うように、これらのファンドはメダリオンと同じ戦略を採用していない。収益率も平凡だ。これは、メダリオンの戦略が規模に制約のある、精密に設計されたシステムであったことの証左である。
本稿がメダリオン・ファンドの神秘的な成果を完全に説明できるわけではない。ある人は、ルネサンスが最高のマーケットメーカーだったと言うかもしれない。数百万件の取引から得られるごくわずかな利益が積み重なり、大きな収益を生み出すという話だ。しかし、メダリオンの収益率はあまりにも圧倒的であり、単にそれだけで説明するのは困難だ。
一つだけ確かなことがある。メダリオンは「効率的市場仮説」という既存のパラダイムにとって、マイケルソン・モーリーの実験級の衝撃であるということだ。市場の歴史上、無視することのできない反証であり、一考の価値がある。
メダリオン・ファンド:究極の反証
Medallion Fund The Ultimate Counterexample.pdf • 38 KB
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