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2022年11月23日

後退する気候目標:基金の設立は前進ではない

ペ・ソンウ

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"我々は、気候変動の最悪の影響によって生活と生計が破壊された地域社会への影響にどう対処するかを熟考し、その損失と損害を支援する資金について数十年にわたり対話を続けてきましたが、今、前進する道を決定しました。"

-サイモン・スティル、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長

11月6日から19日まで(予定期間より1日延長)、シャルム・エル・シェイクで開催されたCOP271の終盤に、

国際社会が気候変動による「途上国の損失と損害に対応するための基金設立」に合意しました。

COP27'1:第27回気候変動枠組条約締約国会議

7日時点では温室効果ガス排出国トップ10のうち9カ国が不参加となるなど進行は円滑ではなく、化石燃料の廃止に関する議論も進展がありませんでしたが、

この基金の設立は、「先進国が自らの引き起こした気候変動によって途上国に被害を与えたことを認めるもの」であると報じられました。

基金が設立されたこと自体に意味があるということです。

何かを判断するためには、やはり内容を知る必要があります。

まず、前回のCOP26における主な合意内容は以下の通りです。

  • 化石燃料発電の削減(段階的)
  • 地球の気温上昇抑制目標(1.5℃、〜2030年)に関する検討
  • 先進国の気候変動対策資金の2倍増(〜2025年)

非常に分かりやすい内容です。

化石燃料を少しずつ減らし、地球のためにエネルギーを調整しているかチェックし、

クリーンエネルギーなどに使われる気候変動対策資金の額を増やすという意味です。

続くCOP27で行われた会議の内容は以下の通りです。



  • 化石燃料の段階的削減

米国および欧州諸国は、中国とインドに対して化石燃料の使用中止を求めました。

当然ながら中国とインドはこれに反対し、以前と同様の「段階的削減」に落ち着く形となりました。

化石燃料の削減対象に石炭だけでなく石油と天然ガスも含める案がありましたが、これもロシアとサウジアラビアの反対により通過しませんでした。

従来の使用レベルを維持することにとどまったのです。

  • 地球の気温上昇を1.5℃に制限

地球の気温上昇を1.5℃に抑えることは、気候変動に対応するために科学者が提示した最も望ましいシナリオです。

地球の気温上昇の許容ラインを1.5℃と定めるという内容で、COP21で初めて公式化されました。

これに対し、中国とインドは科学的に現実性に欠けると指摘し、既存の合意事項さえも緩和しようとする姿勢を見せました。

  • 多国間開発銀行の資本調整

以前に合意された環境基金の支援は、十分に履行されませんでした。

気候変動を緩和し対応するプロジェクトを履行するためには、時間が経つにつれて天文学的な資金が必要になるためです。

様々な国や投資家、多国間開発銀行から毎年1兆ドルが必要とされていますが、進んで乗り出すのは容易ではありません。「支援」という概念であるためです。

これに伴い、発展途上国への支援を行うために多国間開発銀行の資本が調整(recapitalisation)される可能性が残されました。

  • 発展途上国の損失と損害基金

温室効果ガスの大部分は先進国から排出されているにもかかわらず、その被害は開発途上国が受けているため、支援を要請するという内容です。

開発途上国は、こうした環境の変化に適応し対応するために資金が必要だと主張しましたが、

先進国は、昨今の国際経済情勢を理由に難色を示しました。

IMF先進国、国連後発開発途上国、国連
IMF先進国、国連後発開発途上国、国連

ここで一つ、興味深いポイントがあります。

国連の開発途上国基準によれば、中国やインドも開発途上国に分類されるという点です。

先進国の温室効果ガス排出によって開発途上国が被害を受けているため、基金を設立して支援するということは、

中国から排出された温室効果ガスで中国が被害を受けたにもかかわらず、他の先進国から資金を受け取るような格好になります。

この資料は、国家の発展レベルに応じて等級分けされた地図であり、

青色が先進国、黄色が開発途上国、赤色が後発開発途上国に該当します。

確かに、中国とインドが開発途上国に分類されていることが見て取れます。

国別の燃料燃焼によるCO2排出量(MtCO2)、Enerdata
国別の燃料燃焼によるCO2排出量(MtCO2)、Enerdata

中国とインドは炭素排出量が非常に多いにもかかわらず、

国民総所得(GNI)に加え、人的資産指数(HAI)2

経済・環境脆弱性指数(EVI)3を含めて分類される国連基準の特性上、先進国の仲間入りができずに起きている状況です。

それだけでなく、基金に関する用語の明記をめぐっても対立が生じ、COP27は当初の閉幕予定日であった18日を過ぎ、19日まで延長されました。

開発途上国は、「損失と被害への対応(responding to loss and damage)」ではなく、「補償(compensation)」という言葉を使用するよう求めました。

干ばつ、洪水、海面上昇といった被害は先進国の開発によって引き起こされたものであり、これへの適応と対処に資金が必要なのだから、

「変化を起こすために資金を投じてソーラーパネルを設置したところで、洪水被害を受けた人々にとっては意味がない」という立場です。

人的資本指数2:今日生まれた子供が18歳までに獲得する人的資本(医療および教育)の総量

経済・環境脆弱性指数3:各国の経済および環境問題の相対的な深刻度を示すための指数

しかし、効果があるはずもありません。

先進国側は「補償」という言葉への修正を認めず、最終的に地球に対する責任の所在のみを認める「対応」という言葉で合意に至りました。



後退した気候目標

米国や欧州などの先進国は2009年に「年間1,000億ドル規模の支援」を約束していましたが、これまで履行されていない状況でした。

さらに今回の総会では、その約束が削除されかける事態さえ起きました。

メディアが「基金の創設が合意された」という事実一つをもって、大きな進展だと報じているのはそのためです。

しかし全体的に見れば、COP27はCOP26に比べて大きく後退したと言えます。

基金に関する協議が難航したせいで、他のテーマに関する交渉が具体的に定まらなかったためです。

各国は自国の利益を優先した結果、特定の条件でなければ決して合意しないという立場を表明したり、自国に関係のない事案であれば関与しないという姿勢を見せたりしました。

化石燃料の使用に関する規制事項は扱われず、同様に温室効果ガスの排出に関する規制事項も議論されませんでした。

これにより、COP27は次の一文で要約できそうです。

「気候変動は長期的な目標だから、一生懸命努力するよ」

世界の天然ガス埋蔵量、Altas Big
世界の天然ガス埋蔵量、Altas Big

最終合意案には実際にlow-emissions energy、つまり低炭素排出エネルギーも含まれています。

低炭素排出エネルギーとは、天然ガスを意味します。

心置きなく天然ガス開発を行うという言葉にも聞こえます。

ガス埋蔵量が多い国々の中で、洪水、干ばつ、海面上昇の被害を受けると同時に開発途上国である国は、

トルクメニスタン、イラン、アフリカ(モザンビーク)、ナイジェリア、ベネズエラ、アルジェリアなど、実に多い状況です。

被害を受けていない国を探す方が難しいでしょう。

ガスが必要な状況において、このような国々だけに資金が集まる可能性もあることを念頭に置くべきだということです。

3行まとめ:

1. 11月6日〜19日、COP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が開催された。

2. 開発途上国の「損失と損害」に対応するための基金創設で劇的な合意、一部メディアでは大きな進展と表現。

3. 事実上、具体的に決まったことはなく、むしろ後退した様相。

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