2025年05月24日
世界を飲み込むAI、そしてその中心に立つGoogle
ソン・リュンス
「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる」
2011年8月、米国の著名なベンチャーキャピタル(VC)アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の共同創業者でありゼネラルパートナーであるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)は、「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる(Software is eating the world)」という伝説的なエッセイを公開し、シリコンバレーのテクノロジー企業が今後世界に及ぼす巨大な影響力が過小評価されていると主張した。彼は、ソフトウェアは当時のスーパーマーケットの流通システムからメディア・エンターテインメント・プラットフォーム(Netflix)に至るまで、我々の日常生活に不可欠なほど深く浸透しており、今後ソフトウェアに長けた企業とそうでない企業の差は幾何級数的に広がるだろうと予測した。
…そして過去数週間、自身の確定拠出年金口座(401k)が乱高下するのを見ていた人々は疑うかもしれないが、これは特に米国経済にとって非常に前向きな話だ。Google、Amazon、eBayなど世界最大のテクノロジー企業が米国企業であることは決して偶然ではない。我々の偉大な研究中心の大学、リスクテイクに寛容なビジネス文化、常に革新を渇望する莫大な資本力、そして信頼できる民法システムは、世界中のどこにも見られないものであり、模倣することもできない。
15年が過ぎた今日、世界の時価総額上位10社のうち、サウジアラビアの国営石油会社アラムコを除く残りの9社がすべて米国企業であり、そのうちバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)を除く残りの8社(Microsoft、Nvidia、Apple、Amazon、Alphabet、Meta、Broadcom、そしてTesla)がソフトウェアあるいはテクノロジー関連企業である。ソフトウェアが世界を飲み込んでいるというマーク・アンドリーセンの主張は決して過言ではなく、今日世界に強大な影響力を行使する企業はすべてソフトウェア企業だと言える。上記のリストでNvidiaは半導体を設計する、つまりハードウェア企業ではないかと言われるかもしれないが、ソフトウェアに非常に大きな強みを持つ半導体設計企業と言える。過去15年間、ソフトウェアが主導した米国経済は、欧州やアジアよりもはるかに多くの付加価値を創出し、社会と産業の大きなパラダイムシフトを主導してきた。
ソフトウェアが主導した過去15年はいつの間にか変曲点に達し、パラダイムはAI(Artificial Intelligence)へと移行しつつある。ここでも米国のOpenAI、Anthropic、Google(Alphabet)、Metaなどのスタートアップやビッグテック企業が設備投資に年間数兆円を投じ、モデルとサービスの領域でパラダイムシフトを主導している。その中でも、Googleの凄まじい速度で改善される技術力とサービス統合力が際立っている。2023年3月、Geminiの以前の名前である「Bard」を初めて発表した時でさえ、「GoogleはAIモデル競争で完全に勝機を失った」という評価が支配的だった。Googleが野心的にリリースしたもののユーザーの反応が悪く廃止したサービスを羅列した「Killed by Google」というウェブサイトが存在するほど、Googleは主要ビッグテック企業の中でインフラと技術力は最高水準にあるものの、それを製品に落とし込む能力が不足しているという評価を多く受けてきた。業界に精通したある人物は、「Google検索が金を稼ぎすぎているからだ」という冗談を言うほどだ。
GoogleはBardのリリース後、あらゆる嘲笑を受けながら自社モデルGeminiの性能改善に集中した。ずっと以前に会社を去っていたセルゲイ・ブリン(共同創業者)が、今では毎日のようにオフィスに出社し、Geminiモデルの性能改善に邁進するほど、GoogleはAIを業界を揺るがす危機的要素であると同時に機会と捉え、全社を挙げて取り組んでいる。過去2年間の努力の結実が数日前のGoogle I/O 2025で公開されたが、技術専門メディアであるThe Vergeの要約版だけで32分に達するほど、充実した内容で溢れていた。
I/O 2025 要約
進化するGemini
最も注目すべき部分は、AIモデルGeminiの根本的な性能向上だ。独自に設計した第7世代TPU「Ironwood」を通じて演算効率を最大化し、Gemini Flash 2.5のアップデートにより推論およびコーディング、長いコンテキスト処理能力を改善した。また、画像生成モデル「Imagine 4」、テキスト音声変換モデル、セキュリティ強化モデルなど、多様な特化モデルを披露し、AIの適用範囲を広げた。AIの動作方式を理解し制御するための「Thought Summaries」、「Thinking Budgets」といったツールの導入は、技術の透明性と責任性を高めようとする努力の一環と見ることができる。これはAI技術の核心的な競争力を強化し、より安定したAIサービスを提供するための基盤を固める重要な動きだ。
Googleエコシステム全般に浸透したGemini
GoogleはGeminiの進化した能力を、自社の広範なサービスに積極的に統合している。AIベースの映像通信「Google Beam」、Meetのリアルタイム音声翻訳機能、Project Astraを継承した「Gemini Live」は、ユーザーのコミュニケーション方式を変化させる潜在力を示している。また、Geminiアプリの「Agent Mode」、Gmailの「Personalized Smart Replies」、コードアシスタント「Jules」などは、生産性向上に寄与すると期待される。特にAI検索モードとDeep Search、Search Live機能は、情報探索のパラダイムを変える可能性が高い。
仮想試着、AIショッピングエージェント、GeminiのChromeブラウザ統合などは、AIが日常生活と消費パターンに及ぼす影響を垣間見させる。動画生成モデル「VO3」、音楽生成モデル「LIA 2」、AIコンテンツ検知技術「Synth ID」などは、コンテンツ制作および流通環境にも大きな変化を予告している。これはAIを特定の機能ではなく、プラットフォーム全般の「基盤技術」として活用しようとするGoogleの戦略を明確に示している。
新たなビジネスとプラットフォーム
GoogleはAI ProおよびUltraサブスクリプションプランを発表し、高度なAI機能に対する収益モデルを提示した。これは、AI技術の価値をいかにビジネスへと結びつけるかという方向性を示している。同時に、Samsung Electronicsとの協力によるAndroid XRの開発と関連デバイスの公開は、スマートフォンの次のプラットフォームとして注目される拡張現実(XR)市場に対するGoogleの再挑戦を意味する。
科学研究の地平を広げるAI
GoogleはAI技術を活用し、数学、生物学、医学などの基礎科学および応用科学分野における難題解決にも乗り出している。Alpha Proof、Co-scientist、AlphaFold 3、Isomorphic Labsなどのプロジェクトは、AIが人類の知識の境界を拡張し、科学的発見を加速させる上で重要な役割を果たし得ることを示唆している。
文章でどれほど巧みに伝えたとしても、直接目にした時の衝撃と新鮮さには及ばないため、映像を視聴することをお勧めする。
AIは世界を飲み込み、そして手中に収めている
この表現は筆者が自ら作成した文章であり、AIがいかに急速かつ強力に全産業を支配しつつあるかを一文に凝縮したものである。
英語圏には「You can't have your cake and eat it too(ケーキを食べてしまえば、それはもう手元にはない)」という表現がある。つまり、二つの利益を同時に得ることはできないという意味だ。しかし、AIはその逆を成し遂げている。世界を飲み込みながらも、その権力と主導権を掌握しているのだ。
AIは製造、金融、メディア、教育、ヘルスケア産業を急速に再編している。しかし重要なのは、単に既存の産業を補助するのではなく、その産業のエコシステムの中心に居座っているということだ。NVIDIAは半導体を超えてコンピューティングの標準となり、MicrosoftはAIをオペレーティングシステムのように構築しており、OpenAIとGoogleは新たな検索と情報アクセスのルールを書き換えている。
結局のところ、AIはプラットフォームであり、プレイヤーであり、審判の役割までも自任している。
かつて技術が産業を補助していたとすれば、今や技術が産業そのものになりつつある。その中心には、もはや「ソフトウェア」ではなく「AI」が存在する。
そしてその真ん中で、GoogleはAIを道具にするのではなく、AIの上に未来のGoogleを築いている。Geminiは単なる言語モデルではなく、Googleという帝国の新たなインフラであり、このインフラは検索、メール、動画、コマース、研究、そして教育など、ユーザーが相互作用するあらゆる領域に緻密に浸透している。
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